子供をとりまく環境
子どもへのまなざし
医学博士 忠井俊明(専門分野:臨床精神医学、臨床心理学、精神生理学)
年明け早々に、友人に待望のお子さんが生まれました。奥様も旧知の間柄なので、早速お祝いに駆けつけました。そんな時、いつも思うことは母親が子どもに向けるまなざしには混じり気のない優しさや、希望にあふれているということ。子どもが誕生した瞬間から始まるこの子どもに対する親のまなざしにはどのような思いが隠されているのだろうか?と私は時々考えます。親である私たちが子どもに接するとき、確かに今ある存在としての子どもを認識していることは事実ですが、そればかりでなはなく、これまで育ってきたその子どもの軌跡に思いを馳せたり、子どもの将来を想像したりすることもあることでしょう。
この今ある子どもにその子どもの現在、過去、そして未来を重ね合わせている状況は、一人の子どもに3人の子どもを見ていることと同じであるといってもよいかもしれません。その上、さらに複雑なのは、子どもへのまなざしの奥にはこの3人の子どもだけでなく、親自身の今、子どもの頃の親(過去)、親の行く末(未来)も映し出されている、と心理学的には考えられえているからです。全部で6人というわけです。
今、ここで存在する一個の人に向けたまなざしの中に、様々な人の姿が万華鏡のように映るこの現象は、心理学的には、“投影”と呼ばれます。このような場合の“投影”は至極、自然な、正常な現象であると考えられています。しかし、これは時折、親子間に様々な軋轢を生じる種になってしまうこともあります。
実際、私たち親は、子どものしつけに厳しかったり、逆に放任してしまったり、また、子どもの勉強に熱心のあまり、学習塾に通わせたり、いわば、様々なことを子どもに強います。もちろん、その多くは子どものためによかれと思ってすることなのでしょう。が、なかには、その親がかつて味わった苦い体験、挫折感を癒すといった親自身が抱える問題を、子どもを代理人として解消してく???といった心の動きも、意地悪くいえば、全く無いとは言い切れないのでしょうか?
少なくとも、子どもへの過度の期待とか、親の思い通りに子どもを育てようとする行動などは少し考えたほうがよいかもしれませんね。なぜなら、そのことはもっぱら親自身の願望充足のためだけにあり、今、ここでの子どもの存在を無視しているように思えるからです。
カウンセリングで、“今、ここで(Here&Now)”という考え方が重要視されるのは、そのためなのです。しかし、このことを実践することは殊の外、難しいようです。というのは、くりかえしになりますが、ある個人に向けたまなざしの中には6人の人間が映し出されている現象が無意識(自然)に行われているからなのです。
忠井俊明先生 プロフィール

医 学博士。主な所属学会/日本精神神経学会、日本心理臨床学会、日本精神分析学会。主な著書に『学校カウンセリング入門』(ミネルヴァ書房1999年)、 『学校カウンセリングの理論と実践』(同2001年)、『ようこそ精神医学へ-基礎と精神疾患13の物語―』(同2003年)
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過去の記事
- 2008年06月号
- クレーマー!クレーマー?
いつも参考にさせていただいています。
ありがとうございます。