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子どものうつ病 (2)
前回は気分障害について詳しくお話ししました。気分障害にかかりやすいタイプである、①几帳面で②責任感が強く、③問題を一人で抱えてがんばるような子どもの性格を「メランコリー型気質」といいます。そして、メランコリー気質の人がかかるうつ症状なので、「メランコリー型気分障害」といったり、「定型気分障害」ともいいます。
一昨年(2008)の春に総務省が行った意識調査で、「心の健康を“崩されている”可能性が高い」と判定された人の割合が、20~30歳代で16%に上りました。ほぼ6人に1人です。医学的には「定型気分障害」とは診断されにくいけれど、心の不調感に悩まされる「軽症気分障害が」が若い世代に増えているのです。
「軽症気分障害」では、メランコリー型気分障害のパターンは必ずしも当てはまりません。とり立てて几帳面でもなければ、がんばり屋さんでもない、責任感も人並み、といった人が目立つのです。定型気分障害とは症状の現れ方が違うので「非定型気分障害」といいます。昔は同様の気分障害で「神経症性うつ病」というのがあったのですが、1994年に、アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計の手引き改訂第4版』(DSM-4)で診断基準が示されて、非定型気分障害の名で呼ばれるようになりました。今の若い世代に多いのは、子どものころから身の回りのことでは何不自由なく育ってきたため、ストレスに耐える耐性が弱いからではないかと思われます。
小学生年代の子どもは、症状の変化が速いので見たてが難しいのですが、その判断基準を以下に示しておきましょう。
定型気分障害と非定型気分障害との違い
定 型 気 分 障 害 | | 非 定 型 気 分 障 害 |
どちらかというと男性・中年 | 年齢・性別 | 女性 20~30代 |
出来事の内容を問対しわず、何にてもやる気が持てない。今まで積極的に楽しんでいた趣味にも、関心や喜びが持てなくなる。 | 気分の 反応性 | 落ち込みや気力、集中力の低下など、うつ病に特有のブルーな気分はあるものの、楽しいことやいいことがあると、その気分が明るくなる。すなわち、出来事に反応して気分が変わる。 |
「モーニング・デプレッション」 | 日内変動 | 「サンセット・デプレッション」 |
入眠困難、熟眠困難、早朝覚醒 | 睡 眠 | 「過眠」傾向。睡眠時間を長くとっているにもかかわらず、昼間には眠けを感じ、いくら寝ても寝足りないような気がする。 |
低下、体重減少 | 食 欲 | 過食傾向、体重増加 |
意欲の低減 | 活 動 | 鉛様の麻痺(手や足が重い、鉛様の感覚) |
頭がボーッとして集中力が出ない。以前ならできたことが、できなくなる。自分が無能になった気がして、自信を喪失する。 | 集中力 思考 | イライラした落ち着かない気分に支配され、注意力が散漫になり、勉強などが手につかなくなる。 |
几帳面、責任感が強い | 性 格 | 他人の言動に敏感、傷つきやすい |
非定型気分障害の判断基準
1 気分の反応性がある 楽しい出来事があると気分が明るくなる
2 次の特徴のうち二つまたはそれ以上が当てはまる
○著しい体重増加または食欲の増加
○過眠
○鉛様麻痺 手足が鉛のように重い感覚
○長期間にわたり人間関係において
拒絶されることに過敏で、そのために社会生活に支障をきたす
子どもの非定型気分障害の改善のために
定型気分障害の子どもへのアプローチは、非定型気分障害の場合アプローチは違ってきます。
普通のうつ病(定型うつ病)では、とにかくゆっくりと体を休め、休養をとることが必要。周囲の人が「がんばれ」と言葉をかけたり、励ますと、本人が自分自身を追い込んでしまうため、よくありません。逆に非定型うつ病の場合は、少し励ますことがかえって本人のためになります。決まった時間に起きて学校に行く。その日の課題をやり遂げさせる。かける言葉はやさしくても、心は厳しく持ちながら、本人の気力を奮い立たせるように接することが大切です。
また、普通の気分障害の多くの場合、絶望感によって自殺を企てる(とくに重症期を過ぎて行動を起こす元気が出はじめたときに)危険があるのに対し、非定型うつ病では、周囲の人に助けを求めるサインとして、衝動的に自殺を企てるおそれがあります。不安や焦燥感が強いときは、しっかり見守ることが大事。
非定型気分障害の場合には、他人からどう見られるかを気にし、他人の顔色をうかがう性格傾向がみられます。つねに相手の言うことを尊重し、従うため、小さいときから「いい子」と言われていた人が多いのも特徴です。根底には、他者の評価が気になってしかたがない、といった不安があり、子どものころから人見知りがあったり、人前であがりやすいなど対人恐怖的な傾向もみられます。
さらに、児童期や思春期に親を亡くすといった、早期の喪失・離別を体験していたり、子どものころに虐待された、あるいは養育者から充分に愛情を注がれなかった体験を持っている場合も多いようです。また、たとえば教室で別の子どもが叱られているのを見て怖かったとか、電車の中で人がけんかしているのを見て恐怖や不安を覚えたなど、周囲の人の体験に怖い思いをした人にも多くみられます。
私たちの体には、およそ24時間で一巡する生体リズムがあります。このリズムが正常に刻まれていると、陽が明るくなると目覚め、暗くなると眠くなるのが普通。ところが非定型気分障害の場合、生体リズムに乱れが生じ、昼間遅くまで眠っていて、そのぶん夜目覚めている昼夜逆転が生じやすくなります。このタイプのうつでは「鉛様まひ」といって、手足に重りがついたように体が重く、ぐったりとした身体感覚を持つことが多くなりますが、これも生体リズムの乱れで、昼間覚醒できないために起こると考えられます。
生活のリズムを乱れたままにしておくと、憂うつ、イライラなどの気分や、体の重さといった症状がますます悪化してしまいます。規則正しい生活を心がけることが重要。また定型うつ病では休養をとることが肝心ですが、非定型うつ病では、昼間は目的を持って活動することが、リズムの乱れを改善するために大切です。
私たちの体内リズムは、朝起きて光を浴びることで調整されます。目に光が入ると、脳の松果体から出るメラトニンという睡眠物質の分泌が抑制され、睡眠がリセットされます。これによって、一日24時間でサイクルする体のリズムが整うのです。
朝起きたら、「今日はこれをしよう」「何かをやり遂げよう」と、その日の目標を持って、毎日を生きることが大切。「この本を読もう」など簡単なことでかまいません。「何かをしないといけない」と自分自身で自覚を持つことが、昼間の覚醒を促し、生活リズムを整えるのに役立ちます。
学校に行ける場合には、多少つらくても時間どおり登校したり、勉強に取り組むことも必要です。やらなければいけないことがあり、それに取り組むことが、精神の覚醒を促すため、体内リズムを正常にしてくれるのです。好きなことだけやっていると、睡眠・覚醒のリズムが暴走し、逆効果になります。
体を動かす方法としては、掃除や片づけなどもおすすめです。適度な運動になるだけでなく、「今日は机の片づけをする」ということが、その日の目標になってリズム調整に役立ちます。きれいになると達成感もあります。さらに体を動かす姿を周囲の人に見られると安心し、感謝されることで人間関係の改善にもなり気分がよくなります。
一日1回は外に出て、光を浴び、散歩をするなど体を動かすようにします。ウォーキングなどの軽い有酸素運動をすると、それによって脳では気分を安定させる脳内物質の分泌が増え、気持ちが楽になります。
人によって治るきっかけはさまざま。人間関係がボイントになることも 休養をとり、適切な治療を受けることで回復していく定型うつ病と異なり、非定型うつ病の場合、悪循環を繰り返すことが多く、なかなか治りにくいのが現状です。しかし、治療を続けるうちにふとしたきっかけに遭遇してよくなることも多くなります。人間関係で不快な刺激が少なくなるなど、人によってそのきっかけはさまざまです。大人なら職場の人間関係が影響する場合、異動を申し出たり、転職を試みるのもひとつのきっかけになります。
非定型うつ病と併発しやすい病気・問違われやすい病気
パニック障害
突然激しい不安にかられ、動悸や震えが起こり、このまま死んでしまうのではないかという恐怖でいたたまれなくなる。こうした「パニック発作」が繰り返し起こり、いつまたその発作が起こるかもしれない、と思うと不安でいられない病気。発作が起こりそうな不安(予期不安)が高じて、乗り物に乗ったり人混みに出かけたりすることができなくなる「広場恐怖」を併発することもあり、それにともなって強い体の倦怠感や無気力を感じる非定型うつ病に陥ってしまうケースも少なくありません。
社会不安障害
いわゆる「対人恐怖症」と呼ばれる病気。人前に出れば、だれでも多かれ少なかれ不安や恐れを抱くものですが、「人前で失敗するのではないか」「恥をかくのではないか」「他人からバカにされ、変な人と思われたらどうしよう」という心配が過剰になり、人と会う状況を避けがちになって、社会生活にも支障をきたしてしまいます。体にも、「手足が震える」「息が苦しい」「動悸がする」「大量の汗をかく」などの症状があらわれがち。人との関係に過敏になるあまり、自信の喪失やひきこもりなどから非定型うつ病に至ることも。
境界性人格障害
対人関係が不安定で、過剰な理想化と過小評価との両極端を揺れ動くのが特徴的。気分も安定せず抑うつ、イライラ、不安などの間を変動し、空虚感や見捨てられている不安を抱えていることが多くなります。また他者に受け入れてもらいたい半面、それが得られないと激しく怒りを爆発させて相手を責めたて、リストカットなどを繰り返す、といった様子がみられます。そのため非定型うつ病と混同されたり、また併発することが少なくありません。