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記憶のメカニズム

感覚記憶と短期記憶と長期記憶  

 私たちが憶えていること、学校で習ったことや、子ども時代の想い出などは、記憶の種類のうちの長期記憶といわれるものです。その長期記憶以前のレベルに、感覚記憶と短期記憶というのがあります。 

少し難しくなりますが、記憶のメカニズムについて整理しておきましょう。私たちが見聞きすること(視覚情報と聴覚情報)は、大脳の視覚野、聴覚野というところで受理されます。視覚野は大脳の後頭部、首筋の上ぐらいのところにあります。聴覚野は左側頭葉、耳の奥から頭頂部にかけてのところです。前回の脳マップを参照してください。視覚野や聴覚野には、次から次へと膨大な情報が入ってきますので、気持ちを向けなければ、だいたい0.2秒ぐらいしか保持されません。感覚記憶とか瞬時記憶と呼ばれています。その膨大な情報の「何か」に注意を向けることを選択的注意というのですが、選択されたものは短期記憶に移ります。この短期記憶の容量は7±2チャンクです。保持時間は18秒くらいです。ここにチャンクというのは「ひとまとまり」という意味です。
たとえば無意味な数字の羅列を提示されれば、7±2文字(5~9文字)しか記憶できません。携帯電話の電話番号は11桁ですので一度には覚えられないにしろ、最初が090ではじまれば、090は局番としてのひとまとまりの意味を持っているので、090と残り8つの数字で9チャンクということになります。9チャンクなら記憶力の優れていれば、憶えていることができます。電話をかけるときに覚えた番号を何度も反復することをリハーサルといいます。リハーサルしなければ、18秒たたないうちに忘れてしまうのです。電話がつながるまで憶えていればいい程度のリハーサルを「維持リハーサル」といいます。何度も復誦し、手で書き、視覚化する、長期記憶に送り込むためのリハーサルは「精緻化リハーサル」といわれます。短期記憶には感覚記憶を選択的に知覚したことだけでなく、長期記憶にあることがらも入ってきます。どちらから入ってきても、一度に保持されるのは7±2チャンクですから、試験問題に解答するようなときには、長期記憶から短期記憶に短期記憶にデータを次々と転送して入れ替えていることになります。

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想起と忘却(思い出すということと、忘れるということ)
 
試験問題といえば、文章題で、( )の中に適当な語句をいれなさいと指示して、語群が与えられていないときは「再生」といい、語群が表示されて、そこから選ぶ場合は「再認」、何々について述べなさいというような場合は「再構成」といいます。長期記憶に保持されていることがらを、再生するか再認するか再構成するかです。
長期記憶に保持されている多量で雑多なことがらは、やたらと詰め込まれたものではなく、何らかの構成を受けています。後で述べる長期記憶の種類にもよるわけですが、類似の意味ごとにまとめたり、グループ分けされたり、シナリオ化されるなどなどです。構成を受け整理された記憶は「知識」と呼ばれます。 
忘れるということはどういうことでしょうか。0.2秒くらいしかもたない感覚記憶なら痕跡消失です。容量の少ない短期記憶なら痕跡消失と新たな情報との入れ替えです。長期記憶の場合はどうなのでしょうか。試験中にどうしても思い出せなかったことを、試験が終わってから思い出したという経験はよくあることです。後から思い出せるなら記憶痕跡がなくなっているわけではありません。長期記憶の中にあるはずのことがらをうまく検索できなかったということでしょう。うろ憶えであったことなら、先に憶えたことや後から憶えたことが干渉して、邪魔をすることが考えられます。 

kioku2.jpg エビングハウスという人が、記憶の節約率曲線(一般には忘却曲線として流布している)の実験をしています。100語の意味のない英語の音節を60分かけて憶えたとしましょう。明くる日にもう一度憶え直す(再学習)のです。そうすると、昨日60分かかったのが50で憶え直せたとしたら、時間が10分節約できたことになります。初回の学習から、途中で再学習することなく、2日後に再学習する人、3日後に再学習する人、一週間後に再学習する人というように実験を繰り返すと、節約できた時間は少しずつ減るけれども、決してゼロになることはありません。 


長期記憶の種類 

私たちの長期記憶は内容によって大きく2つに分けられます。「宣言的記憶」と「手続き的記憶」です。宣言的記憶とは、○○は××であるというような形で表せることがらです(たとえば富士山の高さは3776mであるとか)。これにたいして、手続き的記憶とは身体が覚えていると表現できるような記憶です。宣言的記憶は大脳が受け持ち、手続き的記憶は小脳が担当しています。 
宣言的記憶は「エピソード記憶」と「意味記憶」に分かれます。エピソード記憶はできごとの記憶で、いつ、どこで、誰が・・・の5W1Hで表すことのできるような記憶で、意味記憶は名前の通り、語句の意味などの一般的知識の記憶です。
手続き的記憶は、技能や、プライミング記憶、古典的条件付け、その他に分かれます。技能とは、スポーツや自転車の乗り方などのような記憶、プライミング記憶は日常の何気ない動作や行動などのように無意識に繰り返されるパターン化された記憶、古典的条件付けとは、梅干しを見ただけで酸っぱいと感じてツバキが出てくるような身体が反応してしまう記憶です。kioku3-2.jpg


加齢とともに、物忘れが進むというとき宣言的記憶中でもエピソード記憶が失われます。また、物覚えが悪くなるというのは、感覚記憶や短期記憶の衰えによるものであって、長期記憶に転送する精緻化リハーサルがしにくくなっているからだと考えられています。

 

八尾 勝
博士(臨床教育学)、臨床心理士Dr.Yagi_M.jpgのサムネール画像
日本カウンセリング学会認定スーパーバイザー

大阪教育大学附属池田小・中学校をはじめとした小・中学校・高等学校でスクールカウンセラーを勤める。一方、大阪女学院短期大学などで心理学の非常勤講師としても勤務。臨床に基づいた研究活動、各方面へのメンタル・サポート活動の普及などのため、東奔西走している。

 

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